高校生の現代文テスト対策 夏目漱石『こころ』本篇⑤<なぜ「K」は自死したのか>

 恋のために冷静さを失っていた「先生」は、「K」の「覚悟」を、ただ御嬢さんを得るためにまっすぐ突き進むことだと思い込んでしまいました。

 そして、「K」と「御嬢さん」が家にいない状況を作るために、仮病まで使って、「御嬢さん」を妻としてくれるよう、「奥さん」に談判したのです。

 この求婚は、「奥さん」にすぐ承諾されます。もとより「御嬢さん」もそのつもりだったわけで、その意味では「先生」の恋は成就したのです。が、「御嬢さん」への恋を先に「先生」に打ち明けたのは「K」ですから、「K」を出し抜き、欺く行為でした。

 その上、「御嬢さん」との婚約が成ったことを「K」に伝えることができずにいるうち、そのことは「奥さん」の口から「K」に伝えられたのです。

この間の「先生」の心境は、次のように語られています(当時を振り返る形で)。

「要するに私は正直な路を歩く積りで、つい足を滑らした馬鹿ものでした。」

 そして、「奥さん」が「K」に話したことを知って、「K」に謝罪するかどうかを迷い、ともかく明日まで待とう、と考えたその晩に、「K」は頸動脈を切って自死しました。ここから、「先生」の苦しみと特異な人生が始まったわけです。

 さて、ではこのあたりで、なぜ「K」が自死したのか、その理由を考えてみたいと思います。候補として挙げられるのは、以下のようなところです。

ア.失恋のショック
イ.「先生」に裏切られたから
ウ.人間すべてが信じられなくなったから
エ.一人で淋しくて仕方なかったから
オ.「道」を失ってしまったから
  
 エ.は、「一人で淋(さむ)しくって仕方がなくなった結果、急に所決したのではなかろうか」という「先生」の疑念として、五十三の章に書かれています。ここで思い出していただきたいのは、第2回<「K」を下宿に呼んでから>でも引用した、次のくだりです。

 「・・・私が孤独の感に堪えなかった自分の境遇を顧みると、親友の彼を、同じ孤独の境遇に置くのは、私に取って忍びない事でした。一歩進んで、より孤独な境遇に突き落すのは猶厭でした。・・・」(二十四)

 恋のために正当な思慮を失っていたとはいえ、「K」を欺いた「先生」は、親友の「K」を「より孤独な境遇」に突き落としたのです。ただ、ここでもう一つ考えたいのは、前回取り上げた「K」の「覚悟」です。

 「K」の悩みは、自分の恋が成就しうるかどうかといった卑俗なものではなく、「道」のために精進して生きることを自らに課していた彼が、恋をしてしまったことそのものにあったわけです。だから彼の「覚悟」とは、自身の理想と(恋をしてしまった)現実との矛盾を一気に清算するために、彼自身の命を断つことにあったのではないかとも、考えられます。

 そうすると、「K」の自死の理由は、上記のア~オのうち、アは非常に薄く、イ、ウ、エをないまぜにしたものを中心として、「道」を取り戻すことが目的だったのではないかと考えられるわけです。

 私(小田原)は、長く『こころ』を読んで来て、「覚悟?・・・・・覚悟、‐覚悟ならないこともない」と「K」が言った時、彼の心の中には、自死という答えがすでに用意されていたように思っています。ただ、恋のために冷静さを失っている「先生」には、それが見えず、あのような人生を負うことになってしまったのだと、考えています。

※『こころ』について、「K」を中心に考察した<本篇>は、これで終わりとさせていただきます。<読解補遺>として、「K」が自らの信条に反して恋してしまった「御嬢さん(のちの妻=さい)」と、その母である「奥さん」(未亡人)の心情についての考察を、2014年2学期期末テストにあわせて執筆、掲載しました。『こころ』をより深く読みたいとお考えの方は、ぜひあわせてお読み下さい。現在(2014年12月5日)、「国語教室 近代」の最新版として、アップされています)。

◇内容についてより詳しく知りたい方、他作品でも、国語の勉強についてご相談のある方は、お気軽に下記(言問学舎・小田原)までご連絡下さい。

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