<百人一首の効用>最新事例をご紹介させていただきます

 先日、小学5、6年生合同の国語の授業で、百人一首の授業を行ないました。個人が自由に札取りをする、いわゆる「散らし取り」のやり方です。

 今年の東京都立高校入試の国語の問題でも、百人一首についての対談の文章が用いられ、歌人の馬場あき子氏と水原紫苑氏が、それぞれ「言葉の魅力」「音声の気持ちよさ」ということを述べておられますが、百人一首の歌を子どもたちの前で、肉声で詠み上げて聞かせることには、まずそうした歌そのものの味わいを、ダイレクトに生徒に手渡すことができる良さがあります。

 また、言葉通りの「競技」ではありませんが、競技性のある札取りに興じることで、子どもたちに競い合う真剣さが生まれるので、集中力と、言葉に対する感覚も、研ぎ澄まされる効果がみられます。

 特に今回のメンバーで、顕著に感じられたことですが、ふだん国語の苦手な子たちが、上の句から下の句にうつるあたりで、目を輝かせものすごく集中して、活発に手を出して競い合い、言葉に対してこれまでは見せることのなかった取り組み方を、見せていました。一人の子などは、「頭の中で言葉がスパークしているかな?」と思うほど、「聞き取ること」と「考えること」が響き合っている印象でした。

 新6年生の生徒については、翌日の授業において、読み札を見ながら好きな歌を選ばせ、「小学生訳」を教えて、ノートにまとめを作成させました(新5年生は対象外)。選んだ歌は、菅原道真(菅家)の次の歌です。

此のたびは幣(ぬさ)もとりあへず手向山紅葉のにしき神のまにまに

 生徒には、最後に「選んだ理由」も書かせましたが、大意としてこんな内容を、完全に自力でまとめていました。
 「幣(授業ではわかりやすく「お札」としました)をささげることができなくて、本当はよくないところだが、紅葉の美しさをさざけるという発想が、いいと思った。」

 国語の苦手な生徒が、100%自分で考えた理由です。しかもこの子は、菅家のこの一首を選び出す前の段階で、自発的に八首を「候補」として、選び出しました。こちらの指示外です。百枚の読み札すべてに目を通し、八枚を候補として選んで(その時点で、一首ごとの大意を解説)、最後に一首を選んだ理由まで、きちんと書き出す。生徒にこの力を授けてくれたのは、歌の力、あるいは学問の神様(菅原道真公)の力なのでしょうか。

 「百人一首の効用」の最新事例として、ご紹介させていただきます。

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